2021-03-19

 

《停念堂閑記》149

 

「停念堂寄席」」86

 

 

「生きると言うこと」

 

 

ようこそ、「停念堂閑記」へ。よくお越し下さいました。厚く御礼申し上げます。 

ここでの話は、相も変わらぬ、毎度、毎度の代わり映えのしない、アホくさい、バカバカしい、クダラないと言う三拍子を兼ね備えた、行き当たりバッタリの、要するにマヌケな話で御座います。

しかし、取り柄もございますよ。深刻にならないところです。夜、眠れなくなったりしませんからね。

すぐに忘れちゃっても、なんら問題は御座いませんよ。 

なんちゅったって、目的がヒマ潰しですからね。

あるお方が申しておられましたよ。

ヒマ潰しにやることは、須(すべか)らくアホくさいものだと。

まさにその通りで御座いますな。間違いおまへん。

ところが、このアホくさい中から、時に、凄い事が産まれる場合もあるんだってさ。有るかないか分からないほど、ものすごくマレにね。まー、皆無と言って良いくらいにね。

しかし、アホくさい事は、所詮紛れもなくみんなアホくさい事なんだそうですだよ。

間違い御座いません。毎度毎度の《停念堂閑記》がそれを証明しておりますからね。 

定年後の御同輩、きっと、持て余しているのでは。

毎日のヒマを。

お互いに、持て余しているヒマを、なんとか、あの手、この手で潰さなくては、ならないのですよ。

しかしですね。これは、これで、なかなか。ケッコウ手間隙かかるのですよ。

手間隙かからなかったら、ヒマ潰しにならないだろうって、ですか。

その通り。至極、ご尤もなご意見で御座います。同感、同感で御座いますよ。 

と言うことで、本日も張り切って、手間隙を惜しまず、たっぷり手間隙をかけて、連日のヒマと言う強敵に挑むことに致しましょう。

 

打倒! ヒマーッ!

A A O!  エイエイ、オー!!

ヒマ潰しとは、申せ、些か次元の低い、掛け声でんなー。

情けねー! トホホ。

   

《さて、今日も今日とて、あいも変わらず、御隠居の処で、ヒマ潰しとするか。

御隠居、防犯装置を取り付けたからな。行ったら、まず、このカードを御隠居の家の門に取り付けられたカメラにかざす様にと言う事だな。あとは、案内のAIの声に従う様に、と言う事だな。このカードを忘れたら、門前払いと言う事だ。カードを忘れてはなんねーなと。このカード、ポイントつくのかね。

オーイ、カカー。ちょっくら御隠居の処へ行って来るぜー。》

<アイよー。ゆっくりしといで。帰って来なくてもいーから。>

《いちいち憎ったらしい事を言いやがるね。帰って来なくてもいー、だってよ。そのくせ直ぐに迎えに来るくせに。

 

おっ、着いたね。このカメラだな。へいへい、カードをこうかざしてと。》

〝これは、六さん、今日もいらっしゃいましたか。ずいぶんヒマなようですね。〟

《うるせーや。AI野郎、気楽に六さんなんて呼ぶんじゃねーよ。ヒマだろうが、余計なお世話よ。トットと開錠しろってんだ。》

〝それでは早速ですが。六さん。今日は、短編の小説を作ってもらいますよ。一定の水準に達していると判断される場合は、門の錠が開きます。達していない駄作の場合は、開錠致しませんよ。トットと、お帰り願いますからね。時間は3分間です。

それでは、どーぞ。始め。2分59秒、58秒、57秒。早く作らないと時間切れになりますよ。〟

《今日は、短編小説ときたか。》

〝 今日は、難題ですよ。トットと始めた方が良いですよ。〟

《てやんで。オイ AI 、なめんじゃーねーぞ。オメーが言い出しそうな事は、ちゃんととっくに承知のすけよ。

これが目に入らねーか。

〝 時間がどんどん無くなりますよ。何ですか。それは。〟

《やいAI、これを知らねーのか。AIなんて名乗りやがって、これを知らねーとは、オメー、モグリでねーだか。》

〝 これって、それはありふれた誰でも知っているUSBメモリーでしょうが。それがどうかしましたか。〟

《どうかしたかってかー。驚くな、これに「開く戸佳話賞」候補の小説を仕込んであるのよ。恐れ入ったか。》

〝 それこそ何です。その「開く戸佳話賞」と言うのは。〟

《それは、御隠居に聞きなさいよ。御隠居の言い出した事ですだから。》

〝 ハイハイ、了解致しました。要は、それに「開く戸佳話賞」候補の小説が仕込んであると言うのですね。〟

《アタリキヨ。トットと開いて読みなさいっチューの。時間かかるだろうから、さっさと、開錠しなさいよ。》

〝 そーは参りませんよ。ちゃんと、審査して、合格しなくては開錠なんかできませよ〟

《そんじゃー、トットと読みなさいよ。オメーAIだべ。一瞬で読めるだよな。さー、読めよ。》

〝 それでは、カメラの下にあるUSBの接続口にメモリーをセットして下さい。〟

《いちいち手間の掛かるやっちゃなー。ホイ、これでどうだ。》

〝 アリガトーございました。ちょとお待ち下さい。

ハイ、読み終わりましたよ。これが、「開く戸佳話賞」の候補作品ですか。

ありふれたスリラー物かと思いきや、これは予想に反して、性格がコロッと違いますね。〟

《アタリキヨ。「開く戸佳話賞」狙いだからな。》

〝 それでは、皆さんにもご覧頂く事にしましょう。〟

 

 

おっと、眩しー。

途轍もなく眩しいなー。

一瞬にして、世界が一変したぞ。

あー、目がくらむ。

光の世界だ。

目に入るものは、何でも見えるなー。

待てよ。ずーっと以前に、何となくこのような光景を目にしたような微かな記憶があるような気がするな。

随分前のことだ。

その後、いきなり真っ暗闇の世界へ行ったからな。

何であんな所へ行ったのかなー。

別に思考して好んで行ったわけではないな。

何となく自然にと言うか、当然の事として、そのようにしただけだな。

本能に従ったと言うことか。

それにしても、あれから随分長い間、真っ暗闇の世界にいたものだ。

まさに暗黒の世界だったな。

そーだ、いつも一緒にいた仲間がいたけれど、あの連中どうしてるかなー。

なにせ周りは、常に、真っ暗闇だから、仲間の顔も風貌も、見分けができた訳では無かったが、何とはなく、仲間と感じていたな。

お互い争うと言う事は無かったな。

仲間内では、争いはなく、穏やかな時が流れていたな。

皆んな順調に行って、オイラと同じく、眩しーなー、世界が一変したな。光の世界だ。となっているかなー。

暗黒の世界では、時に危険な目にあったなー。

時々、モゥールのヤツに悩まされたな。

ヤツは、自分の通路を作っていて、そこに迷い込んだ他所者を片っ端にやっつけていたらしい。

暗闇ではよく見えなかったけれど。

しかし、ヤツが近づくと、本能的に来たな、と察しられるのさ。

オイラ達は、とにかく隠れる以外に逃れる術を知らなかった。

生を受けて以来、敵と戦うための武器となるものは、一切持ち合わせなかった。

だから、敵が近づいてきたと察しられると、兎に角どこか隙間を探して、そこにひっそり身を隠して、ヤツの行き過ぎるのを息をこらえて、ひたすらじっとしている他はなかったのだ。

仲間と一緒に身を寄せ合って、じっと隠れていたな。

このような事が、時々あったが、そのほかは、暗黒の世界は、

どちらかと言えば、変化に乏しい、何の変哲も無い時が、ただただずーっと続いていたな。

幸いオイラは、モゥールにやられる事は無かったよ。

一緒に隠れた仲間は、どうしているかなー。

無事に、どこかその辺の近くで、やっぱり、オイラと同じく、眩しいー目に遭っているかなー。

さて、想い出に浸っているヒマはないな。

生き延びて、今に至っているのが、何よりも大事な事なのだ。

これからは、一瞬、一瞬が命がけだ。

いつ落命するか、知れたものではない。

兎に角、暗黒の世界とは違って、光の世界は、周りは敵だらけだ。

何でも見えちゃうのだから、油断もスキもあるものではない。

一瞬のスキで、いきなりお陀仏になり兼ねない。

光の世界の宿命だな。

 

さてと、出来るだけ広く見渡せる所の方がいいかな。

取り敢えず、上に向かって移動する事にしよう。

周辺が良く見えるな。

待てよ。こちらから見えると言う事は、向こうからも見えると言う事だ。

結構危険だな。

おっ、少し陰になる所があるな。

取り敢えず、あそこへ行ってみるか。

ここだって、結構見えるな。

しかし、グズグズしてもいられないから、ここにするか。

他に、無難な方法はないな。何しろ全く知識も経験もないからな。

頼りは、本能だけだ。

一か八か、一世一度の賭けに出るより仕方がないな。

ここで、敵に襲われたら、それまでよ。

敵よ、来るんじゃねーぞ。

絶対、来るんじゃーねーぞ。

それでは、行くぞ。

エイッ、ヤーだ。

ウム、どうやら上手く行きそうだ。

ここは、一気に行かなくてはな。

よしよし。順調のようだ。

長い間、着続けてきた闇の世界用の硬い上着とは、ここでおさらばだ。

あー、身が解き放たれた感じだ。

これが、自由と言うやつか。

まだまだ。

敵よ、来るんじゃねーぞ。

絶対、来るんじゃーねーぞ。

本当に、もっと良く動けるようになれるまでは。

もう少しだ。

敵よ、来るんじゃねーぞ。

絶対、絶対、来るんじゃーねーぞ。

今が最も危ないところなんだよ。

よし、あっちの陰の方が、少しはいいかな。

兎に角、敵に見つからないようにしなければな。

静かに、静かに、ちょとずつ進まなくてはな。

もうちょと。

よし。この辺りでいいだろう。

しばし一休みだな。

 

だんだん体が軽くなってきたぞ。

もう一息で、活動開始となるな。

 

オッ! 聞こえて来たぞ。聞こえて来たぞ。

仲間だ。活動を開始したな。

よし、オイラも。

・・・・・・・・・

 

ダメだ。まだダメだ。

焦っちゃーならないな。

もう暫く待たなくては。しばしの辛抱、辛抱。

取り合えすせ、一休みするか。

 

エエッ。ついついウトウトしてしまったな。脱皮に相当エネルギーを使っちゃったせいかなー。

これは、結構なお昼寝になってしまったみたいだな。

今度はどうだ。

試すぞ。

 

ニーン ニン ニン ニー・・・・・

まだダメだ。訛ってるぞ。

これでは、ミンミンに伝わらないな。

もうひと息だ。辛抱 辛抱。

 

よし。今度こそ。いくぞー。

ミーン ミン ミン ミーン。

やった。ついにやった。ミンミンに届け。

よし。ガンガンやらなくてはな。

ミーン ミン ミン ミーン。

ミーン ミン ミン ミーン。

 

ミーン ミン ミン ミーン。

ミーン ミン ミン ミーン・・・・・・・

単純な作業だが、いささか草臥れるなー。

まだ不慣れだからな。ちょっと、一休みするか。

 

休んでばかりもいられないぞ。

また、やるとするか。

 

ミーン ミン ミン ミーン。

ミーン ミン ミン ミーン。

 

ミーン ミン ミン ミーン。

ミーン ミン ミン ミーン。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

これはこれで、結構疲れるなー。

そーだ、闇の世界を脱出して、光の世界に来てから、まだ、何も食べてないのだ。ハラー減ったな。

これでは、元気が出るはずないな。

食事をしなくてはならないな。

おっ、食事処のケヤキ亭が見えるぞ。メニューは一つきりだが、ケヤキジュースは、なかなかイケるそうだ。

ケヤキ亭まで、初飛びとするか。

待てよ。慎重にいかなくてはな。

いきなりの飛行は危険だな。

羽は、昼寝している間に、すっかり乾燥したな。

だけど、まだ何となく緑っぽいから、無理は禁物だな。

よし、テストだ。羽を震わせてみるか。

やってみるぞ、それっ。

オットット。やばい。危なく飛び出しそうになっちゃたぞ。

しっかり、この木に足でしがみ付いてと。

それっ。パタパタ・・・・・・。

よしよし。何とか順調そうだぞ。

もう一度、それっ。パタパタ・・・・・・。

よしよし。良いみたいだぞ。

ケヤキ亭までは、6、7メートルだな。

これくらいなら、大丈夫な気がするな。

やってみるか。

よし、しがみ付いていた足を緩めてと。

それっ。パタパタ・・・

オットット。やばいよ。やばいよ。

何だっ。下へ引っ張られるぞ。

誰だ。ひっ張ってるのは。

とりあえず上昇しなきゃー。パタパタ パタパタ・・・

ケヤキ亭に向かって、力いっばい パタパタ、パタパタ、パタパタ・・・

ヨッシャ、ケヤキ亭の壁だ。しがみ付くぞ。それっ。

ヒェー、危なかった。

誰だ、下へ引っ張ったのは。危なかったなー。

ヌ? 

待てよ。ひょっとして、これが地球の引力と言う奴か?

目に見えない奴は、厄介だなー。知らんぷりして、デーンと存在しているからな。

飛ぶときは、いちいち引力を計算に入れとかなくてはなんねーな。本当に厄介な奴だねー。

なにせ、こっちとら初体験ばかりだからなー。

さてと、ケヤキ亭に到着したからには、まずは、腹ごしらえだな。

ケヤキジュースだな。

チュー、チュー、チュー・・・・・・・・

たまらねーな。タダで飲み放題だからな。

タダで、飲み放題だよ。ありがてーな。ケヤキ亭様々だな。

チュー、チュー、チュー・・・・・・・・

さらに、滞在もタダで居放題だよ。上へよじ登っていけば、見晴らしは抜群。カラスのカー助の居場所だって、直ぐにわかっちゃうから。ありがてー、ありがてー。ケヤキ亭様々。

チュー、チュー、チュー・・・・・・・・

 

うーい。もーダメ。飲んだ、飲んだ。腹いっぱいだ。

 

さて、腹ごなしに、一発行くとするか。

 

ミーン ミン ミン ミーン。

ミーン ミン ミン ミーン。

 

ミーン ミン ミン ミーン。

ミーン ミン ミン ミーン。

 

快調、快調。

早いとこ、ミンミン気付いてくれねーかなー。

 

ミーン ミン ミン ミーン。

ミーン ミン ミン ミーン。

・・・・・・・・・・・・・・

 

おう、日の出だ。

光の世界二日目の朝だ。

お天道様は眩しいなー。

おいら達には、洗顔や歯磨きの習慣がないからな。

目が覚めたらいきなり朝食よ。

いただきまーす。ケヤキ亭のモーニング定食。

無料のケヤキジュース。

チュウー、チュウー。

飲み放題。ありがてー、ありがてー。

チュウー、チュウー。チュウー、チュウー。

飲んだ、飲んだ。お腹いっぱいだ。

 

さー、今日も、いくとするか。

 

ミーン ミン ミン ミーン。

ミーン ミン ミン ミーン。

 

ミーン ミン ミン ミーン。

ミーン ミン ミン ミーン。

・・・・・・・・・・・・・・

 

今日もミンミンとは、遭遇出来なかったな。

 

光の世界三日目の日の出だ。

今日も、ケヤキジュース、チュウチュー。

ひたすら、ミーン ミン ミン ミーンだな。

ミーン ミン ミン ミーン。

・・・・・・・・・・・・・・

 

今日もダメだった。ミンミンには、届かなかった。

 

光の世界四日目の朝だ。

またまた、ケヤキジュース、チュウチューの朝食だ。

よし、気合いを入れて行くぞ。

今日は、場所を移動してみるか。ここでは、ミンミンに届かないみたいだからな。

見渡すと、あっちの欅が大きいな。距離は10メータ以上あるな。飛行訓練は、出来てないが、トライするよりないか。

地球の引力に、負けられないぞ。それと、問題はカラスのカー助に見つからない事だな。

待てよ。もう少し高いところまでよじ登った方がいいな。

ソロリソロリとな。大分高いところに来れたぞ。見晴らしが一層良くなったぞ。

ここから、一気に飛ぶか。

まずは、カー助がいないか、よく確認しておかなくてはな。

よし、大丈夫のようだ。

地球の引力には負けられないぞ、

ソレッ。

全力で、パタパタパタ・・・・・・・・・

おうおうっ、引力感ずるな。

負けじと、パタパタ・・・・

カー助、来るなよ。パタパタ・・・

もうちょっとだ、パタパタ・・・

ヨッシャ、着木。思いの外、うまく行ったぞ。

アッ、カー助だ! 隠れろ。幹の反対側に隠れるよりないな。

幸い、葉の裏側に隠れられるぞ。

バタバタバタ・・・

ヒエッー、ヤバかった。間一髪だったな。暫くじっとしてるよりないな。ヤバかった。

 

光の世界五日目の朝だ。

移動先のケヤキジュース朝食だ。チュウチューチュウチュー。

味は変わらないなー。チュウチューチュウチュー。

さて、五日目ともなると、些か焦りが出てきたな。

生存日数が気掛かりになって来たぞ。

生を得た責任を兎に角果たさなくてはなー。

厳しくなって来たなー。

要するにミンミンに巡り会わなくては話にならない。

もっと上の方がいいかなー。

ソロリソロリと・・・・・

かなり高いところに来れたな。

よし、力一杯行くぞー。ミンミンに届け。

 

ミーン ミン ミン ミーン。

ミーン ミン ミン ミーン。

・・・・・・・・・・・・・・

 

今日もダメか。

 

光の世界六日目の朝だ。

俄然、生存日数が気掛かりになって来たぞ。

今日は、何とかしたいものだ。

兎に角、出来ることはただ一つ切りだからな。やるより無い。

さー、ケヤキジュースを飲んで、いくぞー。

 

ミーン ミン ミン ミーン。

ミーン ミン ミン ミーン。

・・・・・・・・・・・・・・

 

パタパタパタ・・・

ヌッ! 何だ! 何だ! この気配は? ひょっとして。

ミーン ミン ミン ミーン。

ミンミンか!

パタパタ・・・ ひょっとして、セミ太郎!

ミンミン!

セミ太郎!

やった、やった! 再会だー。

ミンミン!

セミ太郎!

ミンミン、よくカー助に見つからなかったな。

ラッキー、ラッキー。

よし、取り敢えず、ケヤキジュースで乾杯と行こう。

ミンミン、巡り会いに、カンパーイ。

チュウチュー チュウチュー。

本当に、巡り会えてよかった。

このまま、ミンミンに巡り会えないまま、明日、明後日には絶命か、と思うと、いささか焦っていたのだよ。

何のために、暗の世界で、数年を耐えて来たのか、生まれて来た責任を果たせずに、落命かと思うと、焦らずにはいられなかったよ。

出来ることは、ただただ、ミーン ミン ミン ミーンとやる以外に術を持っていないからなー。

兎に角、ミンミンに会えて、良かったよ。

早速だが、生を受けた責任を果たすことにしょう。

いいか? ミンミン。

いいよ、セミ太郎。

・・・・・・・・・・・・

ぎりぎり、セーフだ。

後は、ミンミン頼りだよ。卵いっぱい産んでくれよ。

任せて頂戴。セミ太郎。

頼んだよ。ミンミン。

おいら達は、ただただ子孫を残すためだけに、生を受けた存在だからな。兎に角、ギリギリのところで、責任を果たし得たと言うところだな。

 

明日は、永眠かなー。明後日かなー。

実に、儚い一生だなー。でも、悔いはないね。

しかし、オイラ達は、実に非生産的存在だな。

蜜蜂やアリンコは、みんなで力を出し合って、巣を作り、食料を集め貯蔵する働きに毎日脇目も振らず、専念しているな。

比べて、オイラ達は、目の前の樹木の液で取り敢えずチューチューして、飢えを凌ぎ、ただただ、ひたすらミーン ミン ミン ミーンやるだけだな。

おそらく、キリギリスと同じような存在だな。どうしてこの様な存在になったのかなー。多分、進化の方向が、このようだったのだろうなー。

ただし、光の世界では、その日、その日を生き抜く事に専念している事は、蜜蜂もアリンコもキリギリスもオイラ達も同じだな。

生を受けたものの宿命というやつか。生を受けた途端に、死との戦いが開始されるからな。

 

生を受けたものは、その瞬間から決して勝利のない死との戦いを開始する。しかし、かつて、この戦いに勝利したものは皆無だ。必ず敗北する。

しかし、生きている限りこの戦いから逃れる事が出来ない。極めて厄介な戦いである。

世に、長生き願望のひとは、頗る多い。この願望成就のため、皆あれこれ努力を重ねている。

苦しい受験勉強に耐え、少しでもレベルの高い学校に入学し、卒業して、少しでも条件の良い企業に就職しょうとする。且つ、塩分、糖分、アルコール等々を控えめとして、健康に配慮し続けるなど努力に怠りない。等々ひたすら願望成就に懸命になっている。

これは、個々の願望成就の為の行為に見えるが、本人は気がついていないかも知れないが、実は、根底には、死と戦っていると言う基本が横たわっているのである。

儚いのは、戦い続けている当該命は、この戦いに決して、勝利することはない。

ただし、新たな生命を生み出すことによって、世代を重ねることによって、永遠に、死との戦いを続けるのだ。

                                  完

 

《どうだ! 参ったか、AI。これで「開く戸佳話賞」は、もらったね。トットと、門を開けなさいよってんだ。》

〝 エエッー! 何を勘違いしているのですか。「開く戸佳話賞」なんてとんでも御座いませんよ。ダメダメ。〟

《ナニー! どこがダメなのよ。》

〝 どこがって、第一、これのどこが面白いのですか。こんな面白くもない話見たことないですよ。まったく問題になりません。アキマヘン。〟

《「開く戸佳話賞」ダメだ。と言うのだな。

と言うことは、門は開かない、と言うことだな。》

〝 アキマヘン。〟

《「開く戸佳話賞」の戸が、開かなきゃー仕様が無えーな。

 なら、アバよ。御隠居に宜しくな。サイナラ。》

 

どうも御退屈様で御座いました。

懲りずに、またのお越しをお待ち致しております。

お後が宜しいようで。