《停念堂閑記》154

《停念堂閑記》154

 

「停念堂寄席」」91

  

 

いつも、危機意識を!」

 

 

ようこそ、「停念堂閑記」へ。よくお越し下さいました。厚く御礼申し上げます。 

早速、恐縮で御座いますが、ここでの話は、相も変わらぬ、毎度毎度の代わり映えのしない、アホくさい、バカバカしい、クダラないと言う三拍子を兼ね備えた、行き当たりバッタリの、底、奥行きの浅い、要するにマヌケな話で御座います。

しかし、取り柄もございますよ。決して深刻にならないところです。夜、眠れなくなったりしませんからね。

すぐに忘れちゃっても、なんら問題は御座いませんよ。 

なんちゅったって、目的がヒマ潰しですからね。この目的さえ、しっかりと認識しておけば、万事OKで御座いますよ。

あるお方が申しておられましたよ。

ヒマ潰しにやることは、須(すべか)らくアホくさいものだと。

毎度毎度の《停念堂閑記》がそれを証明しておりますからね。 

さて、定年後の御同輩、きっと、持て余しているのでは。

毎日のヒマを。

お互いに、持て余しているヒマを、なんとか、あの手、この手で潰さなくては、ならないのですよ。これがリタイア後の最大の課題ですからね。

しかしですね。これは、これで、なかなか。ケッコウ手間隙かかるのですよ。

手間隙かからなかったら、ヒマ潰しにならないだろうって、ですか。

その通り。至極、ご尤もなご意見で御座います。同感、同感で御座いますよ。 

と言うことで、本日も張り切って、手間隙を惜しまず、たっぷり手間隙をかけて、連日のヒマと言う強敵に挑むことに致しましょう。

 

打倒! ヒマーッ!

A A O!  エイエイ オー!

ヒマ潰しとは、申せ、些か次元の低い、掛け声でんなー。

情けねー! トホホ。

   

《こちら六さんです。さて、今日も今日とて、あいも変わらず、御隠居の処で、ヒマ潰しといくか。

オーイ、カカー。ちょっくら御隠居の処へ行って来るぜー。》

<アイヨー。ゆっくりしといで。帰って来なくてもいーから。>

《いちいち憎ったらしい事を言いやがるね。帰って来なくてもいー、だってよ。そのくせ直ぐに迎えに来るくせに。》

 

 

《おっ、着いたね。御隠居いるかな。今日も退屈してるかね。

御隠居。お元気でやすか。退屈しのぎの六さんでやんすよ。》

『六さん。しらっしゃい。お待ちしておりましたよ。どうぞ、お上り下さい。』

《へいへい、それでは、ちょっくらお邪魔しますだよ。》

『今日は、良いお天気ですね。』

《へい、見ての通り、雲一つない、晴天でやすよ。それが何か?》

『おっ、そう来ましたか。』

《そう、来ましたかって、御隠居。何で、人と出会ったら、天気の事を言いだすのですかや。》

『どうしてでしょうかね。』

《どうしてでしょうかねって、それでは会話が途切れてしまいますだよ。御隠居。》

『そうですね、きっと、会話を途切れさせないためではないでしょうか。』

《と言う事は、天気の事を話題にすると、会話が途切れないのですかえ。》

『多分ね。まず、人と出会って、何の話をしようかな。と言う時には、天気の事でも話題にすれば、間をつなぐのに良いのではないでしょうか。』

《天気の話をすれば、話が進むのですけ。》

『その相手、状況にもよるでしょうが、大抵の場合は、天気については、お互いに多少の関心があるでしょうし、ちょっとした知識も持ち合わせていると思われますので、共通の話題としてふさわしいのではないでしょうか。』

《なるほどね。しかし、何時迄も天気の話をしていてもしようが御座いませんよ。天気の次はどうします。御隠居。》

『お決まりから言えば、天気の次は健康の話ですよ。人に出会うと、必ずと言って良いほど、お元気ですか、と切り出す方が多いですよね。誰でも、健康には関心があるのですよ。』

《なるほど、健康ね。オラだって、特上の次は、健康に関心があるだよ。そー言われてみれば、みんな健康を気にしているだよな。オラの知り合いの連中も、顔を合わせると体のここが、かしこが、痛いだの痺れるなどと、すぐ自分の方が重症だと、自慢話をするだよ。》

『自慢話ですか。』

《そーですだよ。以前温泉で同窓会をやった時にも、みんなデカ腹を並べやがって、熊の野郎が、どうだ俺の手術の傷跡が一番でかい、と自慢したら、虎の野郎が、いや俺は三ヶ所やったと威張り、そしたら丑の野郎が、俺は、内視鏡の手術だったので、傷跡は小せえが、癌の末期だったので、5時間もかかったと自慢しやがって、すごく盛り上がっただよ。》

『そーですか。そーですか。それにしても、六さんのお知り合いは、熊さん、寅さん、丑さんなど、なんか動物系統のお方が多い様ですね。』

《そーだな、女性を含めると十二支が出来上がるだよ。》

『動物園を開業出来そうですね。』

《囲いに放した熊だの虎だのを見に行くだか。まーおもしれーと言えば、面白いかもしれねーな。あいつらの行動は、予想がつかねーからな。》

『えーッ、熊さんや寅さんを使って、一儲けしようと言うのではないでしょうね。』

《冗談、冗談ですだよ。御隠居。》

『分かってますよ。

ところで、今日の話題は何を用意して来られましたか。』

《御隠居。今日はとても深刻なのを用意して参りましただよ。》

『えーっ、深刻なのですか。お手柔らかにお願い致しますよ。』

《と言うのは、以前から、常々疑問に思っていた事がありますだよ。これが中々深刻なやつでしてね。夜もおちおち眠れなくなるのですだよ。》

『六さんが眠れなくなるような、そんな深刻なものを持って来られても、埒が明きませんよ、キット。』

《イヤイヤ、御隠居なら、チャチャッと、要点をまとめれば、済む事ですだよ。》

『チャチャッとですか。六さんの持って来た話題にそんな簡単なものは、あった試しがないですよ。ややっこしいものばかりではありませんか。』

《そんなことはありませんぜ。いつも何だかだ言っている間に、何とかなっているではねーですか。まー、それなりにですだが。何たって、御隠居には「独偏」(独断と偏見の短縮形)と言う、得意技があるではねーですか。天下の宝刀独偏を抜きっぱなしにすれば、それで、チャチャッと行っちまいますだよ。》

『六さんは、何時も気軽でいーですね。』

《それそれ、この何時でもの能天気が、オラの得意技ですだよ。あとは、特上を獲得すれば、万事OKですだよ。》

『能天気と特上で万事OKですか。敵いませんね。

ところで、今日ご持参のその深刻な話題とは何でしょうね。』

《それが、なんと危機意識と言うやつですだよ。いつも周辺を見れば、危ない事だらけですだよ。もー、夜もおちおち寝てらんねーだよ。と言いながら、眠気に勝てず、ストーンと眠りに落っこちてしまうだよ。この危険を前にして、ストーンと眠りに落っこちてしまうことが、そもそも危険なのですだよ。いけねー、寝てしまった。とハッとして、目を覚ますだよ。ところがそれは一瞬のことで、間をおかず、またまたストーンと眠りに陥ってしまうだよ。どうしたもんだべ、御隠居。》

『六さん、それは本人が思っているより、危険に対する意識が、相当薄いのではないですか。』

《それがね、この間、夜中に飛び起きて「地震だー!」と、叫んじまっただよ。そしたら、カカーに「なに寝ぼけてんのよ」としこたま怒られちまっただよ。地震の夢を見ただよな。ところが翌日夜中に、カカーに「地震だよ」と叩き起こされただよ。オラは、「それは夢だ」てんで、ストーンと眠りに落ちちまっただよ。そしたら、なに寝ぼけてるの、まだ揺れているでしょ、とまた、カカーにしこたま怒られちまっただよ。地震より、カカーの方が、よっぽどおっかねーだよ。》

『六さんの場合は、カカー、地震、雷、火事と言う順ですなー。

確かにね。地震、雷、火事などは毎日発生するわけではないけれど、カカー様は、常時毎日顔を付き合わせる存在ですから、気を抜けませんね。危険度満載、危機意識を怠ると痛い目に合う事必定ですねー。』

《御隠居の場合もそーでやんすか。オラの所は、もー、一瞬たりとも、油断をしようものなら、途端に大爆発でやんすよ。ぜってー、スマホを手放す事はできねーだよ。すぐに110番か119番に通報しなくてはならねーだから。》

『本当ですか? 六さん。』

《御隠居、こんな話に、いちいち本当ですかは、ねーでしょ。本当かは。》

『これはどうも失礼致しました。うっかり無粋な発言を致しました。それにしても常に警戒に怠りなく、気をつけて下さいよ。』

《御隠居、そこまで念をおさなくとも。》

『これは、重ね重ね失言でした。どうかご勘弁を。

ところで、危機意識を、常に持たなくてはならない昨今ですねー。身近な所で何が起こるか、全く予想がつかない状況ですね。』

《そーですだよ。先日も、Jアラートと言うやつですけ。テレビやらスマホから一斉に警報が鳴り響いて、ビックリさせられただよ。北朝鮮がミサイルを飛ばしてよこしたとかで。安全な所へ非難しろだって。》

『そうですね。嘗ての安倍政権の時に、北朝鮮がミサイルを飛ばした。さあ、安全な所へ非難せよ、と言うJアラートが全国向けに発せられましたね。あの時も、そんな事言われても国民は、何処へ逃げれば良いのだと、大いに戸惑いましたね。』

《そうですだよ。大変だ。さあ逃げろと言われたって、何処に、どんなものが、何時飛んで来るのだか、さっぱり分からず、何処へ逃げれば良いのかが全然分からず、参っただよ。》

『これで、政府の危機意識の低さが、はっきりと暴露されましたね。時の総理大臣が、お題目的に “国民の生命と財産は、絶対に守る” と事あるごとに強調していた、その具体策が、これでしたからね。Jアラートを発しされても、その対処の仕方が全く用意されていませんでしたからね。国民はどうすれば良いんだ状況で、困惑するばかりでしたからね。』

《それで、こんな対処不能のJアラートを発っして、何の意味があるのか、と言う批判が続出して、結局、北朝鮮のミサイル発射に関する、Jアラートは、あまり出なくなっただよな。》

『つまる所、国民は警報を出されても、その対処の仕方を知らされていませんので、どうしょうもできないわけで、戸惑うばかりですからね。どの様なモノが、何時、何処に落ちてくるのか分からないのですから、気をつけろと言われても、どうしょうもない事態ですよね。』

《大体どの様なモノなんですだべ。発射時の模様がテレビでよく放映されたりしているだが、あの発射された物体が、ドスーンと落っこちて来るのですかや。それとも、どこかの時点で破壊された状態のモノが落っこちて来るのですかや。》

『どんなものを想定しているのでしょうね。時に、自爆装置が付けられていて、事情によって自爆することが、度々報じられたりしてますね。はたまた落っこちた時点で爆発する可能性があるのでしょうかね。』

《気をつけろ、と言われても、何が落っこちて来るのかわからないからね。何時、何処に、と言う点についても、全然不明の状態ですだよ。》

『そーなんですよ。発射後、日本列島を飛び越えたらしい、と報じられたかと思いきや、いや、突然レーダから消えちゃって、行方不明と報じられたり、何がどうなっているのか、ただただJアラートを発して、気をつけろと言われてもね。対処のしようが御座いませんよ。』

《テレビでは、逃げ場所としては、地下室へ、と言う様なことがよく言われているだが、そうそう都合がよく逃げ込める地下室がありますかチューの。》

『それですよ。大きな都市では、地下室を持つビルがあちこちにありますが、警報が出た時に、大勢の人が押し掛けた場合、受け入れてくれるのですかね。高層ビルの場合、ビルにいる人は、一斉に地下室に逃げ込むのですかね。よほどどでかい地下室でないと、収容不可能ですよ。』

《地下鉄に逃げれば、と言う事もよく耳にするだが、警報が出た場合、地下鉄は受けてれてくれるのかね。入場券買わなくてはならねーのかね。だいたい、逃げ込める地下鉄や地下室など、全国的に見れば、完備されていますかチューの。』

『警報発令によって、皆が地下鉄に逃げ込んで、大混乱になったと言うニュースにお目にかかったことがございますか。国民は、警報が出されても、誰も逃げ回らないのですよ。』

《そーですだ。結局は、“あー又かい” の “オオカミ総理” 状態 に陥ってしまうのがオチですだよ。警報の効果になど、何ら期待できない状態ですだよ。この様な事態に、発信責任者の総理は、どう思っているのですかや。警報は発したのだ。総理、政府としては、するべきことはした。あとは国民個々が対処すべき、とでも思っているのですかや。困っちまった状況ですだな。まったく。》

ところで、六さんはどの様に対処したのですか。』

《どの様にったって、とりあえず、近くにあった毛布をひっかぶっただよ。》

『毛布1枚で、ミサイルを防ごうとしたのですか。』

《流石に、毛布1枚ではと気づき、せめて布団をと思ったのやんすが、何とカカーもそー思った様で、布団の奪い合いになっちまっただよ。》

『それで、どーなりました?』

《いきなり、カカーのパンチがね。オラー、ノックアウトされちまって、気絶しちまっただよ。気がついたら、毛布も剥ぎ取られていただよ。Jアラートッアー、カカーの直撃警報と言うわけだか。御隠居。》

『それはそれは、災難でしたねー。ミサイルが落下して来る以前に、奥様のパンチをくらっちゃったー、と言うわけですか。それは、ひとたまりもありませんなー。不用意なJアラートの実害は、この様に現れるのですねー。総理の責任は、計り知れませんなー。』

《そーですだよ。御隠居。これで “国民の生命は絶対に守る” と事ある毎に言っている総理は、どう責任をとってくれるだよ。Jアラートのせいで、オラの生命は、危険にさらされちまっただよ。御隠居。》

『六さんの奥さんのパンチをまともに喰らおうものなら、そりゃープロボクサーだって、一発で落命し兼ねませんでしょうからね。よくぞご無事で何よりでした。』

《御隠居、オラーそこまでは言ってねーだよ。》

『これはこれは、大変失礼をば致しました。言い過ぎでした。前言を撤回しますので、どうぞ、ご勘弁のほどを。』

《そんじゃー、特別にカカーには内緒にしますだよ。その代りと言っちゃー何でやんすが、そのー、何でやんすなー。そのー早い話が、特上の方をよろしくお願いしますだよ。》

『おっとそー来ましたか。危険はどこに潜んでいるか分かりませんねー。しかし、今度ばかりは致し方御座いません。いーでしょう。今日は特上寿司と参りましょうか。

総理、この様な事態に進展するのですよ。責任をとってもらわなくては。ホント。』

《御隠居は、流石に物分りが良くて、いーですだよ。いっそのこと、総理になっては、どうーですだべ。》

《六さん、そんなおべっか言って、毎日、特上にありつこーなんて、そーは問屋が卸しませんよ。》

《おんや、御隠居。問屋と来ただか。ついに流通業にも、手を広げたのでやんすか。》

『まったく、とぼけちゃって。参りましたね。

そもそもの危機意識から、かなり離れた話になってしまいましたよ。』

《そーですだよ。危機意識問題が、特上問題に次ぐ重要問題ですだが、特上問題が円満解決したので、危機意識問題に話を戻したら、いかがなものでやんすか。》

『まったく調子の良いことを。

危機意識に関わる近時の出来事と言えば、安倍元総理の狙撃事件がこざいましたな。驚きましたね。警察もそれなりの警備・警護態勢を敷いていたと思われますが、ぽっかりと抜け穴があったのですね。それが元総理の正に命取りとなってしまったのですね。これも元はと言えば、危機意識の希薄がもたらせた結果と言えるでしょうね。結果論かもしれませんが、安倍元総理も、あの様な場所での演説について、もっと配慮する必要があったでしょうし、警護に当たる奈良県警の方も、万全とは言えなかった、と言うことでしょうね。』

《そうですだよなー。びっくりしただよ。不特定多数の人が集まる場合の警備は、何が起こるが分からないと言う事を前提に、出来得る限り幾通りものパータンを想定して、準備を怠りなく、臨まなくてはならないだよな。》

『そのとーりですね。それが何事も無い事態が続くと、どうしても緊張感が薄れ、そのために基本をウッカリ疎かにしてしまう事になりがちですからね。』

《その後の岸田現総理の事件が、たいして間をおかずに発生してしまっただよ。この事件でも、警備態勢の御粗末と言う他ない側面があっただよな。》

『そーなんですよ。もっと緊張感のある警備ができなかったのかねー、と思いますね。安倍元総理の事件があって間も無い時だから、普通はもっと、緊張感があって良かったのではないのでしょうかねー。》

《にも関わらず、事件が起きてしまったたよな。》

『まー、判断の難しいところがありますが、日本の警察の特質と見られなくもない側面がありそーですねー。よく言われていますが、日本の警察は、発生してしまった事件の犯人の捜査・確保に専念する傾向が強く、事件を未然に防ぐための対策に弱い側面があるのではないか、と言う指摘がありますね。』

《そーですだよ。安倍元総理の時も、その後の岸田現総理の時も、事が起こる以前の警備がもっと徹底していたならば、あるいはあの様な事態が起こらなかったかも知れねーだよな。》

『そーなのですよ。事件が起きてからでは、もー手遅れですからね。岸田現総理の事件後に、担当県警の責任者が会見で、その時、幾つかの反省点を申しておりましたが、その中に、総理の演説を聞こうと集まった民衆を、突然の予期せぬ危険な事態勃発に際して、退避させるための対策に、警察の警備上十分な対策が講じられていなかった、と言う様なことを述べておりましたが、問題の一つは、正にその点にもあるのでしょうね。要するに、総理の警護を専らするために、SPがつけられていた。しかし、集まった民衆の退避誘導など、すなわち民衆の警護の方は、正に脆弱であったと言うことですよ。』

《そーなんですだよ。総理の警護には、専属のSPが付けられているだよな。その他に、警察も総理の警護に当たっていただよ。ところが、集まった民衆は、警察の警備(不審者の摘発)の対象にはなっているが、警護の対象とされているのかと言うと、この辺がどうも怪しい、非弱だったのでは、と言う事すだよ。》

『正に、そーですね。SPは当然のことながら、警察も専ら総理の警護第一で、民衆の警護は、最初から手薄になっていた。初めから、あまり準備されていなかったと言う事ですね。』

《岸田総理の時は、SPが大活躍だったな。何かが民衆の中から、岸田総理に向けて投げつけられたけんど、それにいち早く対応したのが、一人のSPでやしたなー。》

『そーでしたね。あの時の映像は、誰が撮ったのですかね。何度も何度も、テレビで繰り返し繰り返し放映されましたね。一人のSPの足元に発煙して火花が散っている金属製と見られる短いパイプ状のものが落ちてきたのを、素早く防護用のカバンで跳ね返し、さらに片足で蹴って、遠ざけましたね。そして、直ちに総理を現場から、避難させたのでしょうね。避難の模様は、映像ではあまりよく分かりませんでしたが。』

《発煙して火花が散っている金属製と見られる短いパイプ状の物体に気付いた、近辺に居た女性が、悲鳴をあげて、駆けて逃げ出したのが映って居ただよ。》

『そーでしたね。女性は、この様な事態の時に、甲高い悲鳴を上げるのに長けてますね。女性の方が、危機意識が旺盛なのでしょうかね。男性の方は、甲高い悲鳴を上げる人は、あまり見かけませんよ。何だ何だとウロウロする方に長けている様ですが。この点については、時を改めて検討する必要がありそうですね。』

《その点については、オラがその内に、問題提起するだから、今は、危険物が総理目がけて投げつけられた事件に、集中して下せーよ。》

『ハイハイ、失礼いたしました。以前からちょっと気になっていたものですから。

SPによって蹴られた後の危険物については、映像では見られませんでしたね。集まっていた民衆が、異変に気付き、騒ぎ始めて間をおかず、破裂音が聞こえましたね。後の検証の結果、投げ込まれた金属製のパイプ状の物が、破裂したことがわかりましたが、その一部がかなり離れた建物の壁に突き刺さっているのが、確認されましたから、それ相当に危険な物であったのですね。大怪我を負った人が居なかったのが、偶然でしょうが幸いでしたね。』

《そこなんですだよ。そこ。SPが総理を、素早く危険から、避難させたので、総理に危険が及ばなかったは、本当に良かった、と言うことですだよ。》

『そーでしたね。総理に何かあった場合は、それこそ一大事でしたからね。』

《そーですだよ。総理の警護については、SPも警察も、何とか危機を免れた、と言うことですだよ。ところが、集まった民衆を危険から避難させる、と言う点については、どうだったのか、と言うことですだよ。》

『そこなんですよね。この点については、警察も大いに反省していた様ですよ。警察は、総理の警護に懸命だった、と言うことで、民衆の警護は、分かりよく言ってしまえば、結果的には、手薄になっていたと言う事なのでしょうね。』

《まー、全容が分からない混乱中の事ですだから、とっさに、最適な方法を行使出来なかったのも無理はなかったかもしれねーだが、しかし、その様な事態を想定した対策も用意すべきだと思われるだよな。》

『そーなのですよね。色々な事態の発生を予想した対策が、あらかじめ必要なのですよね。』

《それにしても、しかし、岸田総理は、絶好のチャンスを逃したと思わねーですかや。御隠居。》

『えーっ、それはどう言う事ですか。六さん。』

《えーっ、御隠居が気がつかねーとは、どう言う事だべ。すげー、簡単な事ですだよ。》

『何ですか。一体、それは。』

《それでは、明日の特上の予約をおねげーするとすベーかな。》

『ここで、また特上ですか。勘弁して下さいよ。頼みますよ。』

《あまり欲をかいては、後々の事もあるだから、この際、並で良しとしますだよ。並で。》

『並だって、得をするのは、結局は、六さんではないですか。まったく頼みますよ。』

《御隠居、危機意識発揮して来ただな。それでは、今日は特別ですだよ。

と言うのは、岸田総理は、途轍もない大物を取り逃してしまっただよ。まー、結果論ではあるけんど。惜しい事をしただなー。》

『もったいつけずに、サッサと教えて下さいよ。』

《それはだねー、これは、あくまでも結果論ですだが、岸田総理に大チャンスがあったのですだよ。

と言うのは、総理はSPに警護されて、危険な場所から、いち早く避難できたわけで、これはこれで大事に至らず幸いだったと言うことでんな。ところがですだよ。あの時に、あの場所に用意されていたと思われる演台が、確か、危険物が投げ込まれた映像に映っていただよな。》

『映ってましたね。演台と思しき台が。それがどうかしましたか。』

《危険物が投げつけられた時、すかさずSPが対応したのを岸田総理は、間近にいましたから、どの様な事態が発生したかは、直ぐに認識できていたと思われますだよ。それで、直ぐに退避して、大事に至らずに済んだわけですだが、これはあくまでも結果論、投げつけられた危険物による大きな被害が出なかったと言う結果論ですだが、あの時に、すかさず、総理が演台に駆け上がって、集まった民衆に向かって、 “ 危険だ! 直ちに、退避せよ!” と大声で指示した、としたら事態はどうなったか、と言う事ですだよ。》

『えーっ、そーきましたか。そーだったとしたら、これはえらい事になったかも知れませんね。六さん。』

《そーなんですだよ。もしもこーだったら、岸田総理は、我が身の危険を顧みず、集まった民衆の生命の安全を第一とする行動に出たと、もー日本中は大騒ぎになったと思われるだよ。

もー、テレビニュース、ワイドショーは、これ一色で持ちっきり、大変な盛り上がりを見せる事になった、と思われるだよ。》

『きっと、その様な事になったでしょうね。常日頃 “ 国民の生命と財産は絶対に守る ” と言っていたのは、単なる御題目ではなかったのだ、と言う証明になった事でしょうね。』

《きっと、“ 自分の身の危険を顧みず、民衆を救おうとした総理大臣 ” と後々、語り継がれ、ひよっとして教科書に掲載される事になったかも知れねーですだよ。》

『そうですね。結果論ではありますが、大きなチャンスだったのかも知れませんね。もー、総理の支持率は、90パーセントを超えたかも知れませんよ。今頃になって、国会の解散の頃合いを心配する苦労はなかったでしょうね。惜しい事をしましたね。』

《そーですだよ。結局、常日頃 “ 国民の生命と財産は絶対に守る ” というのは、以前と変わらない、所詮、単なる御題目と言う現状が続く事になっただからな。》

『実に、惜しいチャンスでしたね。結果論ですが。

総理に、この様な危険な事態が発生した時には、まずは、国民の生命を救わなければ、と言う強固な意識が徹底していたならば、と言う事ですかねー。』

《そうですだよ。常に危険とチャンスは、実に紙一重と言う事ですだよ。》

『とすると、この事件をチャンスとして、得をしたのは、特上寿司ゲットの六さんと言う事になりますね。ちょっと、方向が違いますが、六さんの危機意識は、常に機能していた、と言う事ですな。』

《そうですだよ。オラの危機意識は、特上と表裏一体となっているだよ。》

『まったく参りましたね。

それでは、六さん、危機意識についての今回の結論を、どうぞ。』

《オラが結論をですかえ。

それでは、甚だ僭越でごぜーますだが、皆さん、寝ても覚めても危機意識を疎かにしては、なんねーですだよ。大危機が大チャンスとなるかも知れねーだから。危機意識を常に持ち続け、並を特上にする様、心がけましょーうぜ。》

 

『どうもご苦労様で御座いました。

今日はこの辺で。

またのお越しを、と言う事に致しましょう。

お疲れ様で、御座いました。』