「停念堂閑記」144

《停念堂閑記》144

 

「停念堂寄席」」81

 

「宿六」

 

 

本日も、「停念堂閑記」に、ようこそお越し下さいました。厚く御礼申し上げます。 

せっかくお越し下さいましたが、ここでの話は、相も変わらぬ、毎度の代わり映えのしない、間抜けな話で御座います。

いくぶん具体的に申しますと、アホくさい、バカバカしい、クダラないと言う三拍子を兼ね備えた、行き当たりバッタリのアホくさい、バカバカしい、クダラない、要するに間抜けな話で御座います。

深刻にならないところが、取り得ですよ。

夜、眠れなくなったりしませんからね。

もー、すぐに忘れちゃっても、なんら問題は御座いませんよ。

 

なんちゅったって、目的がヒマ潰しですからね。

あるお方が申しておられましたよ。ヒマ潰しにすることは、須らくおよそアホくさいものだと。まさにその通りで御座いますな。間違いおまへん。

ところが、このアホくさいと思われる中から、凄い事が産まれる場合があるんだってさ。すごくタマにね。

しかし、アホくさい事は、紛れもなく殆どアホくさい事なんだそうですだよ。

間違い御座いません。《停念堂閑記》がそれを証明している代表的なものですだ。

 

定年後の御同輩、きっと、持て余しているのでは。

毎日のヒマを。

お互いに、持て余しているヒマを、なんとか、あの手、この手で潰さなくては、ならないのですよ。

しかしですね。これは、これで、なかなか。ケッコウ手間隙かかるのですよ。

手間隙かからなかったら、ヒマ潰しにならないだろうって、ですか。

その通り。至極、ご尤もなご意見で御座います。同感、同感で御座いますよ。

 

と言うことで、本日も張り切って、手間隙を惜しまず、たっぷり手間隙をかけて、連日のヒマと言う強敵に挑むことに致しましょう。

 

打倒、閑、暇、ひま、ヒマーッ!

A A O!  エイエイ、オー!

ヒマ潰しとは、申せ、些か次元の低い、掛け声ですなー。

情けねー! トホホ。

 

 

毎度バカバカしい話で、しばしのヒマ潰しにお付き合い下さいませ。

そもそもは、この「バカバカしい」と言うのは、何を基準として、ここからこっちはバカバカしい、ここからあっちは、バカバカしくない、と判断すれば良いのか、と言う大問題が横たわっているのですよ。

「基準設定委員会」なるものを設置しましてね、そして、誰を委員にするのかを決める「基準設定委員選定準備会」を設けましてね。さらに、この準備会のメンバーをどの様にして決めるかの「基準設定委員会準備会メンバー選定準備会」が必要になりましてね。・・・・・

実に、限りがないのですよ。民主主義を徹底するには、中々難しいところがあるのですよ。

そして、準備委員会の審議過程をガラス張りにして、透明性が失われてはなりませんので、常に、一般公開で記録もキチンと残さなくてはなりませんよ。

離任する人が、その後任を裏でコソコソと決めようなんて、そんな姑息なことをやったり、また、やらせてはいけませんよ。

基準は、関わる全ての事柄の判断の基、出発点ですからね。とにかく、裏でコソコソと取り引きして、一部の者に都合の良いことを秘密裏に決めていく、いわば伝統的永田町文化の様なものを認めてはなりませんよ。

そして、最初の問題は、「バカバカしい基準の設定」に関わる課題が、永田町管轄のものかどうか、と言う課題が存在しますな。まずは、この点に関する審議が必要で、その機関が必要となり、この準備機関の設置に関わる必要がありましてね。この準備にまた、・・・・・・と、色々と手間暇が必要となるのですよ。

ネ、勝ち負けがハッキリしているスポーツ界だって、決勝戦を迎えるまで、幾たびもの関門が御座いますから、基準を決めるのは大事なことで、中々難しい側面がありますね。

と言いますとね。「バカバカしい基準の設定」はどうなるか、と言いますと、この手の事柄は、一律にコレって言うものを設定するには、馴染まない側面がある様なので、結局は、それぞれの個人が、それなりの基準を持って臨んで貰うのが、良い様に思われるのですよ。

と言う、ことで、「停念堂閑記」におきましては、「バカバカしい基準」は、個々人がそれぞれ持てば良い、と言うあたりで、手を打っては、と言うことにしたいと考えますので、よろしくお願い申し上げます。

とかなんとか、バカバカしいことで、幾分のヒマ潰しができましたよ。

 

さて、本日の「バカバカしい話」のネタには、「宿六」と言うのを持ってきましたよ。

 

では、ヒマ潰し、参りますよ。

 

「御隠居。おりませんか。雨が降ってますかー。」

『六さん。ちゃんとおりますよ。六さんがやって来ることは、百も承知ですから。なんです。自分が傘をさしているくせに。雨降ってますかっちゅーのは。』

「いやね、アッシは、今日は雨降りだ、と言うことは知ってますだよ。しかし、やっぱり、若輩のアッシが、雨降りだ、と勝手に決めるのは、民主主義に反しはしねーか、と思いやしてね。それで、経験豊富な御隠居の判断も、一応伺っておいた方が、後々のために、と思いやしてね。」

『なんです。今日は、ちょっと何時もとは、様子が違いますよ。何か、企んでますね。六さん。』

「いやいや、そーではねーですだよ。今日も、いたって謙虚な

六さん 十八ですだよ。」

『なんです。六さん 十八なんて。』

「いやー、単なる勢いってーやつですだよ。

それと、今日は、手土産を持参しましただよ。」

『手土産ですか。本当に、今日はどうしたのですか。雨でも降らなきゃー、って、もう、降ってますね。まー、傘をたたんで、お上り下さいよ。』

「それでは、お邪魔いたしますだ。御粗末なものでこぜーやすが、手土産ですだ。」

『これはこれは、気を遣わせてしまって。ところでこれは、なんですか。』

「御隠居のところは、まだだろうと思いやしてね。それ、駅前の和菓子屋でね。この間から、新商品を売り出しただよ。それが、この「煎餅饅頭」と「饅頭煎餅」ですだよ。御隠居、まだ、味見していねーでしょー。」

『なんです。その「煎餅饅頭」と「饅頭煎餅」と言うのは。』

「それは、何を隠そうこれですだ。まさに、「煎餅饅頭」と「饅頭煎餅」でがんしょ。」

『なるほど。どう見ても、そう書いてありますなー。

そーですなー、こちらは饅頭で、こちらは煎餅ですね。』

「へー、ちゃんと書いてあるでしょ。「煎餅饅頭」と「饅頭煎餅」。間違いごぜーませんだよ。」

『はー、ケッタイなネーミングですなー。では、せっかくですので、早速いただきましょー。

おばーさん。六さんですよ。「煎餅饅頭」と「饅頭煎餅」をいただきましたよ。お茶をお願いしますよ。』

 

 

[あーら、六さん。今日も雨の中をどうもご苦労様です。]

「お邪魔いたしますだ。今日は、ちゃんと、御隠居のとこの「ヒマ潰し許可証」を持って来ましただよ。」

[なんです。その「ヒマ潰し許可証」とか言いますのは。]

「へー、アッシのところでは、これからは、御隠居のころへヒマ潰しに出かける時は、許可制にするとカカーが言い出しましただよ。それで、「ヒマ潰し許可証」を申請して、許可が出れば、手土産代が支給されることになっただよ。

それで、今朝は、カカーが、家でゴロゴロしていないで、御隠居のところへご機嫌伺いにでも、行っといで、この宿六。ってんで、手土産代を支給されましてね。それで、早速、「煎餅饅頭」と「饅頭煎餅」となった次第ですだよ。」

[まー、「煎餅饅頭」と「饅頭煎餅」を。と言うことは、こちらとしましては、領収書を発行しなくてはなりませんね。]

「いやいや、そこまでは、大丈夫ですだよ。それっくれーは、アッシも信頼を取り付けてありますだよ。へー。」

[まー、六さんは、奥様の信用が厚いのですねー。]

「そーでもねーですだよ。熊のとこへは、中々許可が出ねーんですだよ。例の一件以来ね。パチンコには、ゼッテー許可が出ねーんですだよ。」

[そーですか。厳しいところは、厳しいのですね。角っこのお豆腐屋さんに、絹豆腐を買いに行く時はどうなんですか。]

「奥様、それはなしっこですだよ。アッシは、金輪際、絹豆腐を買いには行かねーだから。」

[まー、堅いご決心ですこと。それでは、絹豆腐を買って、途中で犬に吠えつかれ、落っことして、グチャグチャにして来て下さい、と言う依頼だったら、どうしますか。]

「奥様、勘弁して下せーよ。そんな注文する人は、いねーですだよ。」

[今度お願いしょうかしら。楽しみが一つ増えましたわ。オホホホホ。

それでは、少々お待ち下さいませ。オホホホホ。]

「御隠居、オホホホホだって。なんとかして下せーよ。」『まー、「煎餅饅頭」と「饅頭煎餅」を食べたら、考えも変わるのではないですか。ククククク。』

「もー、お二人揃って、オホホホホ、クククククなんて。参ったなー。

絹豆腐は、売り切れ。以後当分品切れですだ。売っておりませんから。」

 

『ところで、六さん、今日は、何か、他に用事があるのでは、御座いませんか。手土産から察しますところ、ダジャレれとか。六さん、得意の一枚でもセンベイ、とか、一つでもマンジュウとかさ。』

「御隠居。そんな初歩的なダジャレをやりに来たのではねーですだ。

いやねー、アッシのカカーが、アッシのことを「宿六」と言いやがるだよ。そんで、以前は、御隠居も知っての通り絹豆腐一件の前までは、アッシは、八だったけんど、その時も、「宿六」と言いやがってたのですだよ。その後、絹豆腐の一件で六になりやしてね。それからも、「宿六」と言うだよ。機嫌が悪い時は、「宿六」の六だから、あんたなんか「宿六六の三十六」だなんて、言いやがるのですだよ。」

『奥様、上手いこと言いますね。六さんよりもダジャレのセンスありますよ。』

「御隠居、そんな事で、感心しねーで下せーよ。頼みますよ。まったく。

それで、今日は、「宿六」と言うのについて、ちょいと教わろーと思いやしてね。おねげーしますだよ。」

『今日は、「宿六」と来ましたか。そーですか。奥様ではありませんが、「宿六」の六さん、十八なんて、六六 三十六なんて、ゴロが良いですね。』

「御隠居。つまらねーところで感心してねーで、早いとこ肝心の「宿六」について、やって下せーよ。」

『それでは、十八、いや六さんの御要望に答えて、ポチポチ行きましょうか。』

「御隠居。どこへ行くのですだ。犬を連れて散歩でやすか。」

『そう来ましたか。六さん。そう来られたら、ちょっと遠回りになってしまいますよ。』

「御隠居。アッシが悪かっただ。近道でおねげーしますだ。」

『それでは、直線の近道で行きますよ。

まず、「宿六」とは、妻が使う夫の呼び名の一つだと言われているようですよ。

すなわち、「家(内)にいるろくでなし」と意味に理解されているようですよ』。

「と言うことは、アッシのカカーは、アッシのことを、内(家)にいるろくでなし、と呼ばっていると言うことですかい。御隠居。」

『まー、率直に言えば、そう言うことになりますかね。』

「あのカカーのやつ、帰ったら、ぶっ飛ばしてやらねば。」

『まー、まー、そー興奮してはいけませんよ。まだ、節分につかったパチンコ玉入りの小マスがあるのでしょ。迂闊に行くと、あっさり返り討ちになりかねませんよ。』

「おーっ、そーだった。そーだった。あぶねー。あぶねー。」

『まー、「宿六」とは、そんな意味のようですが、なんだか、分からないところが多いですよ。

例えば、「宿」は、旅籠、旅館の意味ではなく、自分の家を指しているようですよ。

「六」は、数字では無く、「ろくでなし」の省略形だ、などと言われているのですよ。

自分の家なら、なんで「宿」なんて言う文字を当てたのしょうかね。「家六」と言えば良いじゃないですかね。なんでわざわざ「宿」を当てたのでしょうね。

また、「六」の方は、「ろくでなし」なら、一般的には、「陸でなし」と言う文字が当てられてますよ。だったら、「家陸」で良いじゃーないですか。ねー、六さん。』

「そーですだ。そーですだ。ドンドン言ってやって下せーよ。御隠居。屁理屈を。」

『えっ、何か言いましたか。六さん。』

「イヤイヤ、別になんでもごぜーませんよ。空耳でしょー。

それから、「陸でなし」つーのも、そもそも何なのですだ。御隠居。」

『まー、とぼけちゃって、「陸でなし」の方に話を持って行こうなんて、なかなか油断できませんね。六さん。』

「イヤイヤ、これも問題ですだー。「陸」がどうして、「六」になったのですだ。御隠居。」

『だいたい「六」がどうして、「ろくでなし」の省略形になるのですかねー。そんなこと言ったら、六さんはどうなります。六さんは、ストレートにろくでなし、と言う事になってしまいますよ。なんだか、六さんの奥さんが言っている事に、どんぴしゃりになってしまいますよ。ネエ、六さん。』

「御隠居。そー来やすか。参ったねー。ホント。

だいたい、「六」だけで、「ろくでなし」にどうしてなるだよ。それだったら「五」はどうなるだよ。「五」は、五でないと言う事ですけー。なら、幾つだよ。「四」はどうだ。四でねーのか。なら、幾つだよ。」

『言ってやんなさい。言ってやんなさいよ。六さん。だいたい、「六」一字で、「ろくでなし」の省略形とするのは、無理がありませんか。六さんを差し置いて。』

「御隠居。差し置いて、ちゅーのはなんだべ。ちょっとひかかるだよ。大体、「ろくでなし」は、「陸でなし」と言う字が、当てられるだぞ。ネェー、御隠居。」

『そうです。そうです。ごもっともですよ。六さん。』

「それが、「陸」がどうして「六」になるのだよ。「六」だけで「ろくでなし」なんて、「なし」はどうなってるだよ。「なし」は。「なし」がなければ、「六であり」か「六でなし」か区別がつかねーでねーですか。可笑しかねーかい。ネエー、御隠居。」

『良いとこつきますねー。さすがは、六さん。

普通は、「ろくでなし」は「陸でなし」と書きますよ。この「陸」が「六」に変身するには、ちょっと手間がかかりますよね。「ろく」なんて言う字は、「六」でなくても、録 鹿 禄 勒 緑などなど、他に、幾つでもありますからね。何で「六」に納まったのか、説明が必要ですよね。』

「そーですだ。そーですだ。何でアッシの「六」になっただよ。例えば、付録の「録」ならば、六さん十八とか、六六

三十六とか言われずに済むだよ。」

『そーです、そーです。言ってやんなさい。言ってやんなさい。屁理屈を。』

「御隠居、なんか言っただか。」

『いやいや、空耳でしょ。空耳。

そうだ。六さん十八、六六 三十六なんて言わせないためには、六さんが「六」の字を改めて、「録」の字にすればどうです。なかなかカッコ良いではありませんか。』

「なるほど、それもありか。「録」ねー、良いかもなー。」

『待って下さいよ。とすると、「付録の録さん」と言われ兼ねませんなー。』

「エーッ、アッシは、付録か。全く、油断がならねーな。あぶねー、あぶねー。危うく付録にされちまうところだった。

とにかく、「ろくでなし」の「ろく」が、どうして「陸」になっちまったのか、そして更に「陸」が「六」になっちまったのか、そのあたりの屁理屈をおねげーしますだよ。御隠居。」

『聞こえましたよ。聞こえましたよ。はっきりと。言いましたよね。屁理屈と。今度は空耳で、誤魔化されませんよ。』

「御隠居だって、言ったではねーですか。アッシだって、ちゃんと聞こえただよ。」

『それでは、五分五分と言う事で、引き分けですなー。』

「五分五分だなんて、問題は「六」の方ですだよ。御隠居。」

『そー来ましたか。そー来られては、だんだん本筋から、遠ざかっていきますよ。六さん。』

「御隠居。近道で、近道で行きやしょー。」

『それでは、出直して、そもそも、言葉として「ろくでなし」は、現在一般的に使われている「陸でなし」だったのですかね。とすると、「陸」は、どんな意味だったのですかね。』

「御隠居、アッシだって、「陸」くれーは知ってるだよ。あっちは海で、こっちが陸ちゅー、陸ですだよ。」

『そーですよね。それがどうして「陸」に否定の無しをつけて、良くない意味に使われるようになったのですかね。否定の無しが付かない場合は、良いと言う意味に繋がると言う事ですかね。六さん。』

「そりゃー、アッシら陸上の動物は、陸の方が良いですだよ。溺れるしんぺーがねーですから。」

『そー来ますか。それでは、お魚さん達はどうなります。海・川・湖・沼・水槽などの方が良いと言いますよ。』

「御隠居、いっぱい並べれば良いと言うものではねーですだよ。たとえ、屁がついても、理屈がなくてはダメですだよ。」

『と言うことは、屁理屈で良いと言うことですね。一歩前進ですね。六さん。』

「まー、この際、良いですだよ。アッシもその方がやり易いだよ。しかし、遠回りはダメですだよ。そろそろ短時間で決めて下せーよ。御隠居。」

『それでは、ズバリ行きますかね。

先に、六さんは「陸」を海に対する「陸」として持ち出しましたが、あの場合の「陸」は「りく」と読むのですが、「陸でなし」の「陸」は「ろく」と読むのですよ。』

「へー、そうですかい。ややっこしーでんな。ロクでもねー読み方をするものでやすねー。御隠居。」

『そー来ましたか。六さん。それでは、私も、』

「御隠居。悪かっただ。悪かっただよ。ご勘弁を。近道でおねげーしますだ。もー、チャチャを入れませんから。」

 

[お待ちどーさまでした。お茶が入りましたよ。]

「ちょっと、ちょっと、奥様。タイミングが良過ぎませんか。」

[早速、六さんのお手土産をいただきましょか。それにしても、似通った、紛らわしい名前ですね。]

「ヘエ、実はこれにはアッシが一枚噛んでますだよ。」

[あら、六さん、まだお煎餅食べていないのに。]

「さすがは奥様。そー来やしたか。御隠居、奥様がこう来てますだよ。遠回りで行くか、近道で行くか、どうしますだ。御隠居。」

『出来れば、近道の方でお願いしますよ。』

「それでは、寄り道は避けて簡単にめーりやすだよ。実は、駅前の和菓子屋の大将がね。これが、大のダジャレ好きなのですだよ。以前に、アッシが行った時に、新商品を作りたいのだが、何か、いー案は無いか、と持ち掛けられただよ。そこで、アンなら、そりゃー饅頭だべ、と言う事になっただよ。」

『アンだけに、饅頭といったのですね。』

「御隠居、こんな簡単なダジャレに、いちいち解説はいーだよ。」

『これは失礼いたしました。どうぞ先へお進め下さい。』

「そうしたら、大将は、内の饅頭は評判が良くてよく売れている、と言うだよ。それに比べて、煎餅の方がいまいちだ、と言うだよ。そこでアッシが一ヒネリしましただよ。」

[そーですね。あそこのお煎餅は、幾分ヒネリが入ってましたたからねー。そこで一ヒネリといったのですね。六さん。]

「奥様、こんな簡単なダジャレに、いちいち解説はいーだよ。」

[これは失礼いたしました。どうぞ先へお進め下さいませ。]

「それでは、饅頭と煎餅を抱き合わせにしてはどうか。と言う事になりやしてね。そこで、饅頭を上に乗っけたのが「饅頭煎餅」で、煎餅を上に乗っけたのが「煎餅饅頭」と言うところに落ち着いただよ。」

[まー、随分安直なところへ落ち着けたものですね。それだったら、私に相談すればよかったのにね。]

「奥様。何か名案がありますだか。」

[あそこの大福もなかなのものですからね。私でしたら、大福煎餅と煎餅大福といきますわよ。オホホホホ。]

「それでは、アッシと何も変わりがねーですだよ。奥様。」

[それでは、ごゆっくり。オホホホホ。]

 

「御隠居、オホホホホだって。メーッタな。奥様には、かなわねーだよ。」

『まー、同レベルと言う事ですよ。ククククク。』

「また、オホホホのホとクククのクでヤンすか。お仲のよろしい事で。」

『ところで、煎餅饅頭も饅頭煎餅も、同じ味がしますね。』

「あたりめーですだよ。これで、違ったら、オカシなもんでやすよ。」

『おっと、そーきましたか。。六さん。私は、本来遠回りが好きですからね。ヒマ潰しになりますので。』

「御隠居、頼むだから、遠回りは、ご遠慮下せー。」

 

『それでは続きをね。、近道でね。

「陸」と言う文字は、「ろく」と読む場合には、、「正常なこと、まともなこと』と言う意味で使われる、良い意味の文字なのですよ。だから、「陸でなし」の場合、「無し」の打ち消しの語をつけると、「正常では無い、まともではない」と言う、現在使われている「ろくでなし」の意味となるのですよ。』

「なーるほど、そーだったのですけ。一つ、りこーになりましただよ。それでは、「陸(ろく)」が、どうして「六」になったのですだ。」

『それはですね。私は知りませんよ。六さん。』

「知りませんよ。では、あきまへんで。御隠居。屁理屈で良い、と言う了解をしたではねーですか。屁理屈をどーぞ。」

『弱りましたね。私ゃー、歳を取っていますが、「陸でなし」と言う言葉が作られた現場に居合わせたことは御座いませんよ。だから、「ろくでなし」と言う言葉が先にできて、それに「陸」と言う字が後で当てられるようになったのか、どうか、そのあたりのことは、分かりませんよ。

ただね。「六」の字には、正常とか真面(まとも)の意味はないでしょうから、理屈としては、屁が着こうが着こまいが、「陸」の字が先で、それに後で発音が同じ「六」の字が当てられるようになったように思われますなー。「六」の方が、日常的に「陸」より馴染み易かったのではないのでしょうかねー。』

「へー、そーなんですけー。しかし、御隠居、それは御隠居らしい真面目な理屈で、あまり面白くねーですだよ。もっと、屁の付くおもしれーのをやって下せーよ。」

『屁の付くのですか。

ネットの情報の中には、「六」には「陸でなし」に通ずる意味があるとする主張もあるようですよ。その屁理屈が「甚六」の「六」だと言うのですよ。』

「なんです。その「甚六」と言うのは。」

『これはですね。「甚」は「はなはだ」と読みましてね、大層、非常にと言うような意味ですよね。そこで、これに「六」がくっつく訳で、大層な「六」となり、数字の「六」では意味不明ですよね。

しかし、一般的には、「総領の甚六」と言う形で使われているのですよ。惣領は、跡取りで、家を継ぐ人です。昔は、長男が継ぐ事になっていたのですよ。ところが、長男は次男以下と違って、幼少時から、親が甘やかせて育てる場合が多かったようで、結果、のんびりした、お人好しの反面我儘に育った、と言う事ですよ。それで、世間では、のんびりしたお人好しでありながら我儘なところから、そのような人格を「総領の甚六」と呼ぶようになった、と言われているのですよ。

この例から、「甚六」の「六」は、尋常から外れた存在と言う事で、「ろくでなし」につながる、と言うことのようなのですよ。しかし、ここで疑問なのは、尋常から外れることが、なぜ「六」に繋がるのか、と言う理由ですよね。』

「そーですだ、そーですだ。なんでいきなり「六」が出てくるだよ。「四」でも、「五」でも、「七」でも「八」でも、・・・「百」、「二百」・・・でも良いでねーですか。ねー、御隠居。」

『まー、「百」、「二百」になると、どーでしょーかね。前提が、長男との兄弟と言うことでしょうからね。精々一桁ではいけませんかねー。六さん。』

「そー言われたら、そーですだなー。100人だと、年子でも、100年かかるだなー。50人で50年か、こりゃーいくら頑張っても、アッシでは無理だな。やっぱり、一桁あたりかねー。ねー、御隠居。」

『ねー、なんて言われたも、そんなこと知りませんよ。精々頑張って、励んでみて下さいよ。

要するに、中には、長男と次男以下と言う区別をする中で、なぜか六男が次男以下の謂わば代表として出てきたように説明しておられる方もありますよ。よくは、分かりませんが、「六」には、「ろくでなし」の意味合いがある、と言う前提のようですよ。』

「御隠居。なんだか良く判らねー屁理屈のような感じがするだよ。結局、「宿六」の「六」と、「甚六」の「六」の語呂合わせではねーのですか。」

『六さんもそー思いますか。同感ですね。

「ろくでなし」の「ろく」が「陸」だとすると、「六」はその当て字ですから、「六」には、本来の「陸」の意味はありませなよね。ですから、「六」には、本来「ろくでなし」の意味が無いと言うことですから、「甚六」に結びつけるには、「六でなし」の省略形とする「六」が前提にあると言う事では無いのでしょうか。

ですから、「陸」が「六」に置き換えられて、「六」が「ろくでなし」の省略形と言う概念が作られて、これが「宿六」に繋がり、更に「甚六」へ繋げられ、「甚六」の性格が「惣領」に結びつけられて、「惣領の甚六」と言う事になったのでは無いのでしょうか。したがって、「惣領の甚六」は、日常使う言葉としては、ちょっと、手間暇がかかり過ぎていませんか。と言う感じがしますねー。』

「そーですだ。御隠居、どんどん言ってやんなせーよ。屁理屈に勝る屁理屈は、ねーだよ。ねー、御隠居。」

『六さん。なんですそれは。

それでは、屁理屈のついでに、もっと、分かりやすい屁理屈を披露しますと、私は、「ろくでなし」の「ろく」は、「禄」では無いのかなー、なんて、勝手に思っていたのですよ。

「禄」は、簡単に言ってしまえば、士官して得られる手当て、言うならば、今で言う給料のような性格のものですよ。

したがって、「禄でなし」と言うのは、士官しておらず、手っ取り早く言ってしまえば、就職しておらず、決まった給料をもらっていない、ぶらぶらしている存在の者を意味しているのでは、と思っていましたよ。

これだと、比較的分かり良いでしょ。「陸」だ、「六」だ、「六」は「ろくでなし」の省略形だ、「宿六」だ、「惣領の甚六」だ、なんて、無理と感じられる理屈をつけなくて済みますからね。ねー、六さん。』

「なるほど。こっちの御隠居の屁理屈の方が分かりはいーだよ。しかし、御隠居、世の中、そーは理屈通りには、行きませんだよ。捻じ曲げて、捻じ曲げて、なんとか、自分の都合の良い方に、持って行きたがる人が多いですだよ。」
『そーなんですよ。さっきだって、内の奥様、いきなり饅頭を自分の好きな大福にしょうとしましたよ。』

「そーですだ。あの調子だと、絹豆腐にだってされてしまい、絹豆腐饅頭に、饅頭絹豆腐にされちゃうかと、焦っただよ。」

 

《こんにちは。御隠居さん。いらっしゃいますか。》

 

『ハイハイ、お待ち下さい。

 

おー、これは、六さんの奥様。雨の中、よーこそ、いらっしゃいました。』

《失礼します。御隠居さん。内の宿六来てはおりませんか。》

『いらっしゃいますよ。今日は、手土産まで頂きまして。』

《ちょっと、宿六を呼んでもらえませんか。》

 

『ハイハイ 宿六さーん。奥様ですよー。

アッ いけない。間違えちゃいました。』

 

お疲れ様で御座いました。

またのお越しをお待ち申し上げます。

 

お後がよろしいようで。